2024年05月21日

仮想通貨/暗号資産

自民党web3ホワイトペーパー2024を税理士が解説!

この記事の監修者

村上裕一公認会計事務所/代表村上 裕一

大手監査法人での監査実務、事業会社の経理財務、税理士法人の勤務を経た後、村上裕一公認会計士事務所を立ち上げる。仮想通貨の税金を専門とする税理士として、仮想通貨の様々な税金のご相談や顧問を手掛け、多くのお客様の仮想通貨の税金のお悩みを解決しています。

みなさんこんにちは。今回は、自民党デジタル社会推進本部 web3 プロジェクトチームがまとめた「web3 ホワイトペーパー2024」の中から、税制改正に関する提言について税理士が解説します。また、私自身、暗号資産の税金のプロとして活動してきた面があり、自民党Web3ホワイトペーパー2024でピックアップされなかった論点についても解説します。

 

web3ビジネスの健全な発展のためには、適切な税制の整備が不可欠です。暗号資産を取り巻く環境は日進月歩で変化しており、税制もそれに適応していく必要があります。特に個人の暗号資産投資が増加する中、現行の日本の税制では課題が多いと指摘されてきました。そこで、本ホワイトペーパーでは大きく2つの税制改正が提言されています。それでは、具体的に見ていきましょう。

 

提言1:個人の暗号資産課税を20%の申告分離課税に

 

1点目は、個人が保有する暗号資産に対する所得課税の見直しです。現状、暗号資産取引の所得は雑所得として最高55%の税率で課税されていますが、これは諸外国と比べて厳しい税制となっています。米国では長期保有の暗号資産売却益に対し最大20%の税率が適用され、シンガポールでは暗号資産の売却益は非課税となっています。こうした状況下で、日本の暗号資産税制の競争力が問われています。

 

そこで、以下のような見直しが提言されました。

 

【提言内容】

  • 暗号資産取引の損益について、20%の税率による申告分離課税の対象とする 
  • 暗号資産の損失について、所得金額からの繰越控除(翌年以降3年間)を認める
  • 暗号資産デリバティブ取引についても、同様に申告分離課税の対象とする
  • 暗号資産同士の交換については、法定通貨に交換した時点でまとめて課税する

 

金融所得課税の一体化の流れの中で、暗号資産についても他の金融商品と同様の課税方式、つまり20%の固定税率を取り入れるべきだという主張となります。また、暗号資産同士の交換を都度課税するのは実務上煩雑であり、これが原因で暗号資産の損益計算が非常に複雑になっています。そのため、法定通貨への交換時に一括して課税する計算方法を提言しています。

 

この見直しにより、日本でも暗号資産投資をしやすい環境が整備されることが期待されます。課税のハードルが下がることで、個人投資家の裾野が広がり、web3ビジネスの活性化にもつながるでしょう。

 

ただし、上記はあくまでも提言内容となります。今後の税制改正の一つのきっかけになることは間違いありませんが、確実に税制改正がされるわけではありません。特に、暗号資産の交換時を非課税とし、法定通貨に交換した時点で税金を計算するやり方については、従来の計算方法から大きく変わっていることから、より慎重な議論がなされるべきと考えます。つまり時間がかかるのではないかと推測しています。

 

提言2:暗号資産の寄附は非課税に

 

2点目は、暗号資産による寄附の課税上の取扱いの明確化及び見直しです。暗号資産による寄附は、手数料が安く簡便に行えるメリットがあります。さらにブロックチェーン上で取引が行われるために、透明性が非常に高いです。また、海外では暗号資産寄附のプラットフォームも登場し、寄附文化の広がりを後押ししています。しかし、日本では暗号資産寄附に対する課税上の取扱いが不明確なため、寄附をためらう人も多いのが実情です。

 

現状、以下のような課題が指摘されています。

 

  • 暗号資産による寄附が寄附金控除や特別損金算入の対象になるか不明確
  • 暗号資産に含み益がある場合、寄附時にその含み益に課税される

 

金銭による寄附と同列に扱えるのか、含み益課税は適当なのか、といった論点があります。寄附をする側にとって、税務上の不確実性が障壁となっているのです。

 

そこで、暗号資産による寄附について、以下の措置を講じることが提言されました。

 

【提言内容】

  • 個人の寄附は所得税の寄附金控除、法人の寄附は特別損金算入の対象になることを明確化する
  • 暗号資産の寄附について、不動産等と同様に含み益への課税を非課税とする

 

現物寄附は古くから行われてきた慣習であり、公益に資するものです。暗号資産についても、既存の現物寄附と同様の課税上の取扱いを認めることで、寄附の選択肢が広がります。新型コロナ禍で影響を受けた人々を支援する寄附の受け皿としても、暗号資産の活用が期待されるところです。

 

これらの措置により、暗号資産が公益目的に有効活用されることが期待されます。コロナ禍で厳しい状況にある人々や団体を支援する上でも、暗号資産が果たす役割は小さくないでしょう。

 

惜しい点①:暗号資産の相続税について言及なし

 

ただし、本提言では暗号資産の相続税については触れられていません。

暗号資産の相続税については、こちらの記事にて詳細に解説しています。

 

上記の記事の通り、最大税率が(理論上)110%になってしまうという問題を抱えています。

簡単に説明すると、暗号資産の相続時に相続税が最大55%かかってきます。

さらに、相続した暗号資産を売却した際に、所得税及び住民税が最大で55%かかってくることとなります。

この際、通常の株式等の相続であれば取得費加算の特例が適用できるために、相続した資産を売却した際の所得税及び住民税はそこまで大きくかかってこないこととなります。

 

ですが、暗号資産の相続では、取得費加算の特例を受けることができないために、相続した暗号資産を売却する際に所得税及び住民税が丸々計上されてくるのです。

 

結果として、相続税55%+所得税及び住民税55%=110%の税率がかかることとなっています。

 

相続した暗号資産以上の税金を払わなければならないこととなるため、非常に大きな問題となっています。

 

自民党Web3ホワイトペーパー2025では、是非ともこの暗号資産の相続税の問題について、提言内容に含めてほしいと期待します。

 

惜しい点②:法人の暗号資産保有について間違っている 

 

また、当ホワイトペーパーはもともと昨年度も提出しており、自民党Web3ホワイトペーパー2023からの提言内容と進捗についても触れられています。

 

その提言内容から、下記の部分については、記載が間違っております。

 

法人が暗号資産を保有すると原則として時価評価をする必要があり、含み損益が法人税の対象となっています。

そのため、価値が急激に上がった暗号資産を保有している場合、含み益に法人税がかかることから暗号資産を積極的に運用する法人の運営がしづらいといった問題点を抱えています。

 

この問題点に関し、自民党Web3ホワイトペーパー2023では、法人が保有する暗号資産のうち、短期売買目的ではないものを期末時価評価の対象外とする、という提言がなされました。

 

その進捗として、「継続保有する暗号資産に係る期末時価評価課税からの除外措置が講じられた」と記載されています。

 

ですが、これは誤りです。

 

実際に、令和6年度税制改正において実施されたのは、法人が保有する暗号資産のうち、譲渡制限等が付与されている暗号資産は期末時価評価の対象外とする、です。

継続保有と譲渡制限は別物なので、この部分は誤りであると考えています。

 

なお、令和6年度税制改正において、法人が保有する暗号資産のうち、時価評価の対象外となったものは、下記の2つの要件が必要です。

要件①:他の者に移転できないようにする技術的措置がとられていること

要件②:移転制限を付されていることを公表するための必要手続を保有者が行っていること

 

この要件に合致する暗号資産は、法人で保有していたとしても時価評価の対象外として処理できることとなります。

 

web3時代の税制を目指して

 

以上のように、本ホワイトペーパーで示された提言は、いずれもweb3ビジネスの発展を後押しするものです。個人の暗号資産投資を促し、暗号資産寄附の活性化を図ることで、新たなイノベーションの芽を育てることにつながります。

 

一方で、国際的な制度調和や、国民の理解醸成、適正な税収確保など、多角的な観点からの検討が求められています。暗号資産への課税については、各国でもまだ試行錯誤の段階にあり、国際的なすり合わせも必要になってきます。

 

何より重要なのは、イノベーションと課税の公平性のバランスをどう取るかです。暗号資産ビジネスの健全な発展を促しつつ、国民の納得感や安心感も得ていく。その難しい舵取りが問われています。

 

引き続き、官民が連携しながら、建設的な議論を重ねていく必要があるでしょう。最適な制度設計を通じて、web3時代にふさわしい税制の実現を目指したいものです。

 

今後のweb3の発展にとって重要な論点ですので、皆さんもぜひ注目していただければと思います。

 

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